〇ヨウ素の基本情報

ヨウ素」とはまたの名を「ヨード」と言い、我々人間の身体には無くてはならないミネラルの一つです。人間の身体の中では主に甲状腺の中に多く存在し、甲状腺ホルモンであるサイロキシン(T4)とトリヨードサイロニン(T3)の産生に欠かせない物質です。

甲状腺ホルモンは、タンパク質合成や酵素活性などの多数の生化学反応を調節する役目があり、代謝活性の決定に非常に重要な役割を果たしています。

また、胎児や乳児のような成長期段階の骨格系および中枢神経系の正常な発達にも必要な非常に大切な物質です。

さらに、ヨウ素には殺菌効果もあります。手術前に使用する消毒液や市販のうがい薬などで「ヨード」という文字を目にしたことがある方もおられるのではないでしょうか?

最近だと、新型コロナウイルスの殺菌(口腔内に限る)に効果が期待できると話題にもなっていましたね。

そんなヨウ素ですが、自然界では海中に多く存在するミネラルでもあることから、「海のミネラル」とも呼ばれます。ワカメやひじき、昆布などの海藻系の食品に多く含まれています。

〇ヨウ素の欠乏症のリスク

ヨウ素は他のミネラルに比べて吸収率が高く、我々日本人のように海藻系の食品や魚介類を普段から食べる習慣がある場合には欠乏症のリスクはほとんどありません。

しかし、普段から海藻類や魚介類をあまり食べる習慣の無いような国では不足しやすい栄養素として認識されており、アメリカなどではヨウ化ナトリウムというヨウ素とナトリウムの化合物を食塩などに添加したものがスーパーなどで販売されています。

ヨウ素が不足した時の具体的な症状としては、貧血や倦怠感、体力の低下や成長障害など様々なリスクが高まります。

ヨウ素の不足状態が長期間続けば、甲状腺ホルモンの産生が抑制されることになります。ヨウ素の1日当たりの摂取量が約10〜20 µg未満の場合には甲状腺機能低下症が認められ、多くの場合、甲状腺肥大や甲状腺腫を併発してしまいます。

また、甲状腺ホルモンには「成長や発育を促進する」役割があるため、成長期や妊娠期に不足した場合には発達異常や精神遅延、胎児の場合であれば脳の未発達や成長障害、出生後の「クレチン症」の発症リスクを高めます。

※クレチン症とは甲状腺腫や甲状腺機能低下が見られる疾患のこと

〇ヨウ素の過剰症

ヨウ素が不足しやすい諸外国に比べ、我々日本人の場合はヨウ素の過剰摂取が問題となることは少なくありません。

健康体な方であれば、多少ヨウ素の摂取量が増えたところで排泄によってその量を上手く調整することが可能ですが、そのような方でも長期間の多量摂取は健康被害のリスクを高めることになってしまいます。

具体的な症状はヨウ素の欠乏症と非常に似ており、発育障害や甲状腺系の疾患のリスクが高まります。

また、甲状腺ホルモンは基礎代謝を正常に機能させるホルモンでもあるため、過剰症となれば短期間での体重の増加や頻脈、皮膚熱感などの症状が見られることもあります。

〇おわりに

今回は微量ミネラルの一つ、「ヨウ素」についてご紹介しました。

新型コロナウイルスへの殺菌効果についても期待・注目されているミネラルではありますが、普段の食事から摂取する量にも注意が必要な栄養素であることが分かりましたね。

健康のためには、ヨウ素を過不足なく摂取することが大事です。